小田原行ってきた

寿司とケーキの町 小田原


秋と冬の狭間、アブラボウズとシュトーレン

地魚回転すし 小田原港

秋が終わろうとしているのか、冬が始まろうとしているのか、どっちつかずの11月末、小田原へ向かった。 自宅を出たのは10時を過ぎていたことに加えて3連休の最終日。 渋滞に巻き込まれて虚無の時間を過ごすかと覚悟を決めていたが、 保土ヶ谷バイパスから小田原厚木道路へ抜けるルートは拍子抜けするほどスムーズで、 海老名の手前にあるあのダラダラとした坂道で起こる自然渋滞を除けば、僕の心配はただの杞憂に終わった。 人生においてラッキーなことというのは、こういう地味な瞬間に消費されているのかもしれない。

目指したのは地魚回転すし 小田原港という店だ。 店舗名に「回転」と冠してはいるが、 タッチパネルで注文すると、店内を一周するレールに乗って目の前まで寿司が運ばれてくるシステムだった。 この日のラインナップに「アブラボウズ」があったので、注文してみた。 名前の響きだけで言えば、どこかの悪ガキが太ったモンクにつけたあだ名のようだがこれが驚くほど美味かった。 上質で、臭みなど微塵もなく、それでいてジューシーで、口の中が脂の旨味で満たされる。

アブラボウズ

アブラボウズといえば、SHIMANOのインストラクターである山本啓人氏が、水深800mの深海に900gものメタルジグを落とし、 手巻きジギングで釣っていた映像を思い出す。 水深800mから手巻きで魚を上げるなんて、それはもう釣りというより苦行に近い。 正気の沙汰じゃない。あの映像を見た時、僕は人間という生き物の業の深さを感じた気がする。

腹をパンパンに満たしたところで、そこから車で5、6分ほどの距離にある一夜城ヨロイヅカファームへと向かった。 パティシエの鎧塚俊彦氏の店である。デザートにソフトクリームでも舐めようかという軽薄な動機だったが、 結局、家族全員分のケーキを買い、クリスマスが近いという理由だけでシュトーレンまで買ってしまった。 恐ろしいことに子供らはソフトクリームをぺろっと平らげ、すぐに隣接されている庭に駆けて行き、イナゴとバッタを見分けたりしていた。

シュトーレン

正直に言えば、シュトーレンはかなり高価に感じた。冷静になって考えると小麦と砂糖の塊にこれだけの金を払うのかと一瞬怯んだが、シュトーレンが並ぶのはこの時期だけだし、 僕はナッツやドライフルーツがふんだんに使われたパンやパウンドケーキの類がどうしようもなく好きであり、このピュアな気持ちを大切にしていきたかった。 そういえば以前ここを訪れた時、鎧塚さん本人にお会いしたことがある。僕は気づかなかったが、奥さんが気づいたのだ。 少しだけ会話を交わしたが、とても穏やかな方という印象だった。あの時の柔らかな物腰と、今日食べたケーキの味、そして広大な庭でツチイナゴを見つけてはしゃぐ子供たちの姿。 自宅に戻ってからニュースで知ったのだが、鎧塚さんの会社はOICグループに買収されていたらしい。

美味しいものを食べ、子供の成長を眺め、有名なパティシエの会社が買収されたりするニュースを眺めながら、 僕はただ、与えられた時間を過ごしていく。それが幸せなのか、ただの経過なのかはわからないけれど、 少なくともあのアブラボウズもシュトーレンも高いけれど美味かったので全てよしとしておこう。

それにしても、どう考えても手巻きで水深800mはやりすぎ。 流石にそこは電動リールを使って欲しい。楽をすることは悪いことではない。人間は道具を使う生き物だ。