赤坂見附へ
前職の同僚たちとの旧交を温めるという、いかにも人間らしく穏やかな目的のため久しぶりに赤坂見附の地にいる。待ち合わせまでは少し時間があったので、勤勉たる社会人としての良心に従い、現在抱えているタスクの数値検証という飲み会とは真逆の作業に手を伸ばした。
なぜか。自社のオフィスを出る直前に確認した結果、ある数値が期待の10倍に膨れ上がっていたからに他ならない。しかもその実装を行ったのは他でもない自分自身であった。
せめてもの贖罪として作業を続けようと思い、現代文明の聖域スターバックスへと向かった。あの店においては、マックブックを開くことが半ば儀式のごとく定められている。スタバにはマックが似合う。スタバでダイナブックとかを開くなんて、結婚式にフンドシ一丁で乗り込むようなものだ。
ところが、その聖域はすでに敬虔な巡礼者たちで埋め尽くされており、ダイナブックどころか蟻一匹入り込む余地のない混雑ぶりであった。皆が皆、スマホやラップトップを開いては、「たった今世界を変えてます」みたいな顔つきでスワイプ、フリック、タイピングをしている。実際はみんなSNSを開いて現実から逃避しているだけである可能性は否めない。
やむなく近くの別の喫茶店に流れ着いたが、そこで飲んだカプチーノは泥水のような味わいで、舌の上で静かに絶望を広げてくれるシロモノだった。その謎の液体を啜りながら、僕はSQLの奥底に潜む裏切り者を探している。
考えてみればスタバには蟻一匹入る隙間もないというのに、僕の書いたコードには実に容易にバグが入り込んでいる。世の中とはかくも理不尽なものだ。人間が入れぬ場所に人が集まり、入れてはならぬものがいとも簡単に入り込んでしまう。かくして僕は、泥水色の未来を前に、10倍に膨れ上がった数値とともに涙を我慢しながらデバッグするしかなかった。早く酒飲みてー